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東京大学 教養教育高度化機構 D&I部門について

 

 東京大学には多様性が足りない、とは近年しばしば指摘されてきたところです。もっともよく言及されるのはジェンダーの問題で、東京大学の構成員には男性以外の人が驚くほど少ない。これは、教員(とくに専任教員)の女性比率の圧倒的な低さ、女子学生の少なさなどに、わかりやすくあらわれています。けれども、多様性は数だけの問題ではありません。

 

 たとえば、外国籍の人々、何らかの障害や疾患のある人々、性的少数者の人々などは、以前から東大の構成員の中に存在してきました。東大の構成員を男女半々に近づけることは可能かもしれませんが、これらの人々はおそらく数の上では東大構成員の中では少数で居続ける可能性が高いと考えられます。それでもそのような構成員は確かに存在してきたし、今もしているのです。

 

 けれども、東大のキャンパスにおいて講義をしたりゼミで議論をしたりするとき、オリ合宿を企画したりサークルで集まったりするときに、そのような人々のニーズ、その人たちの経験や視点は、大学での議論や企画や活動のなかに、どれだけ組み込まれてきたでしょうか。

 

 従来のキャンパスに女性や様々なマイノリティを連れてくるだけでは、多様性は多少向上するかもしれませんが、D&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン、多様性と包摂)にはなりません。今まではそこにいることになっていなかった人々の存在を前提とし、あるいは存在していてもその経験や意見が重視されてこなかった人々の見解を踏まえて、場を作り直し、議論を組み立て直すことに繋がらなくては、D&Iとは言えないのです。D&Iの推進とは、従来のキャンパス、従来の大学のあり方を変え、今までは気にしなくても済んできたことに注意を払い、今までは素通りしてきた言葉に耳を傾けることに、他なりません。

 

 東京大学は、UTokyoCampusに示された方針に基づき、2022年度には「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」が制定されるなど、ダイバーシティとインクルージョンの一層の推進を目指しています。

 

 けれどもこれは簡単に実践できることではありません。今まで気にしなくても済んできたことに注意を払うために、私たちはまず、何に注意を払わなくてはいけないのか、何をどう気にかけるべきで、それはどのような理由によるのか、それを知る必要があります。

 

 東京大学の「ダイバーシティ&インクルージョン」の理念を支える学びの一環として、教養学部前期課程では2023年度よりD&I教育が大幅に拡大して展開されます。障害学、植民地主義研究、フェミニズム科学論、ダイバーシティと法、社会正義論など、人文学、社会科学、科学技術論などの広範な領域にまたがる多様な講義が前期教養教育に組み込まれ、通年で6コマ開講されることになっています。講義型の授業と並行して、特定のテーマについてより知識を広げ思考を深めたい学生たちのために、より少人数でのゼミ型の授業も、通年で6コマ提供されます。

 

 前期課程D&I授業と協働して駒場キャンパスのD&I推進を支えるのが、2020年度に始まった駒場キャンパスSaferSpace(KOSS)です。KOSSは、ジェンダー、セクシュアリティ、障害、人種や民族などに関わるD&Iに興味をもった学生や、それらの問題を専門的に研究に従事する院生たちが、知識や経験を共有しつつ、互いの学生生活や学習を支え合う場です。セイファー・スペースとは具体的な「場所」であると同時に、相互のエンパワメントと学びのコミュニティをキャンパスの中に自覚的に作り上げていこうとするプロジェクトでもあるのです。

KOSSの入り口の写真。ドアにグラウンドルールが掲示されて、後ろに部屋の中がのぞいている。

 KOSSの活動はキャンパス内にとどまりません。学外に向けたオンライン連続公開講座は毎年述べ人数で1500人近い参加者を集めますし、国内外の研者や作家、アーティストなどをお呼びした公開講演会も年に数回開催し、D&Iに関わる様々な情報を発信しています。

 

 前期教養教育のカリキュラムに組み込まれた多彩なD&I関連授業と、カリキュラムの外で研究者、大学院生、学生、さらには学外の人々が自由に交流しつつ多様で包摂的な学びの場を作り上げる実践に取り組むKOSS。この二つが、東京大学教養学部・大学院総合文化研究科附属 教養教育高度化機構のDiversity & Inclusion部門として、東京大学の前期教養教育の一環としてのD&I推進を協働して担うことになります。

 

 キャンパスや大学、ひいては社会におけるD&I推進とは何を意味するのか、従来しばしば見過ごされてきた存在や経験や思考が、どのような学術的な分析と考察に結実してきたのか、その蓄積の上で私たちはどう思考し行動すべきなのか。東京大学における教養教育の重要な一環として、それを共に学び、考える機会をつくっていくこと。それが、教養教育高度化機構D&I部門のミッションです。

D&I部門長  清水晶子

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